私は峰山高校を卒業後、公共工事主体の建設業を営んできました。日本の経済成長の一翼を担い、公共工事と共に歩んできましたが、国の借金である、国債発行額が大きく増えていく現状の中で、「公共工事は悪だ」と声高に叫ばれるようになり、建設業を取り巻く環境が一気に悪化し、企業として成り立たなくなりました。50有余年の幕を閉じ、私は廃業した訳ですが、本当に「コンクリートから人へ」の政策が正しいのか、自問して参りました。
かつての公共事業政策において、日本中の経済状況が良かった事は事実であり、財政再建に軸足をおいてから経済活動が減速し、景気が悪化してきた事も事実です。もちろん、当然ですがその他の要因も種々あると思います。
そんな中で公共事業の復活を言うと、多くの反論がありました。でも私は、この京丹後市をみても、景気の回復は公共事業しかないと、思い続けている一人であります。これまでから京都大学の藤井 教授の「列島強靭化論」に強い関心を抱き、何かと注目していたのですが、政権が変わり、安倍内閣の中心政策として「国土強靱化」が打ち出され、「国土強靱化基本法」が国会に提出されました。これは、来るべき大地震への対応の他、震災復興やデフレ対策としての意味も持つ重要政策です。
藤井聡 京都大学 大学院教授は、内閣官房参与(防災・減災・ニューディ-ル担当)として政府への助言者となられ、藤井教授が研究した「デフレーション下での中央政府による公共事業の事業効果分析」を発表されました。この研究に出会い、私の思いが裏付けされたと位置付けております。藤井教授の公共事業の事業効果分析を、私なりにまとめて、以下の通り述べたいと思います。
注:本研究では、○○を予期される、示唆される、統計的に示す、などの表現をされています。そのあたり私の表現は、必ずしも正確ではないかもしれませんが、予めご了承下さい。
「デフレーション下での中央政府による公共事業の事業効果分析」
藤井 聡(京都大学 大学院工学研究科教授)
本研究では、デフレーションに突入した1998年から2010年までのデータを用いて、中央政府の公共事業が日本のマクロ経済に及ぼした事業効果についての分析を行った。
分析においては公共事業による内需主導型の経済対策にあわせて、外需主導型の経済対策に対応する総輸出額の影響を考慮した。
その結果、中央政府の公共事業の1兆円の増加 によって、名目GDPが約5兆円増加 すること、そしてそれを通して、デフレーター、失業率、平均給与、被生活保護者数が いずれも改善 し、最終的に 総税収が1.6兆円、出生数が1.7万人増加する という分析結果が示された。
一方、総輸出額の増加には そうした広範な効果は検出されなかった。
●キーワード
公共投資、GDP、失業率、出生数、デフレーター
●公共事業の効果(二つある)
施設効果
事業効果
●目 的
1998年~ 2010年までの、デフレーション期における 中央政府による
公共事業関係費の多寡が、名目GDP、デフレーター、総税収、完全失業率、出生数等の、
日本経済についての多様なマクロ変数に及ぼす影響を分析し、「中央政府による公共事業」の多様な事業効果についての、実証的知見を得ることを目的とする。
●経済成長策
(典型例として)
内需主導型―――公共事業等による大規模な公共投資 ≪公共事業費≫
(ニューディール政策、グリーン・ニューディール)
外需主導型―――輸出を伸ばす ≪総輸出額≫
●公共事業の事業効果の分析―――内需主導型との比較の為、外需主導型も分析
公共事業費(内需主導型の典型)
双方の事業効果を分析し、比較する
総輸出額 (外需主導型)
●比較のため用いる 変数
①名目GDP ―――――――公共事業費も総輸出額も直接的にここに含まれる。これらが増やされることによって、企業の売上額が増え、それを契機にさらに投資や消費が増えることにより、名目GDPが増加する。 さらに、企業が労働者の賃金を増やせば、労働者の消費や投資が活性化し、名目GDPの増加につながる。そうなれば、それら消費・投資に拘わる経済主体の収入も増加する。―→「乗数効果」により「デフレの抑止効果」があり、名目GDPにプラスの影響を与える。
②デフレーター ――――――上記の効果により増えた「総需要の増加」によってデフレギャップが埋められれば、価格の下落が食い止められる。すなわち、公共事業費や総輸出額はデフレーターに対してプラスの影響を及ぼす。
ただし、デフレーターの上昇は、直接的には「総需要の増加」によってもたらされるため、総輸出額と公共事業費のデフレーターへの効果は、「総需要の増加」によって媒介される。なお、総需要の増加による媒介の効果を分析するにあたっては、名目GDPを媒介変数として用いる。
③総税収 ―――――――――「名目GDP」が増えればそれにあわせて総税収も増加することが予期される。この因果関係により、公共事業費や総輸出額の総税収への効果は名目GDPによって媒介されることが予期される。
④完全失業率
⑤給与所得者の平均給与
⑥生活保護被保護者実員数 ――過剰供給量を意味するデフレギャップが公共事業費や総輸出額の増加、乗数効果等によってもたらされた「総需要の増加」によって埋められれば、失業者が減少し、平均給与も増加し、そして生活保護を受給する人数も減少することが予期される。したがって、公共事業費や総輸出額の増加は、これらの指標の増加をもたらすものと期待される。なお、これらの変数の変化は直接的には「総需要の増加」によってもたらされるため、総輸出額と公共事業費のデフレーターへの効果は「総需要の増加」を反映する名目GDPを媒介されることが予期される。
⑦出生数 ―――――――――公共事業費や総輸出額の増加を契機として国民所得が増加すれば、出生数も増加することが予期される。そしてこの因果関係からも明らかな通り、公共事業費や総輸出額の出生数への効果は国民所得によって媒介されることが予期される。なお、本研究では、国民所得を意味する変数としては、上述の(6)給与所得者の平均給与の変数を用いることとする。
●本研究で想定する事業効果の構造
◇公共事業費・総輸出額 ―――――――― 名目GDPは直接に影響を受ける
◇デフレーター、総税収、完全失業率 ―――― 名目GDPを媒介する
生活保護被保護者数、平均給与(公共事業費・総輸出額から間接的に影響を受ける)
◇出生数についてはさらに、名目GDPを媒介して間接的に影響を被る
平均給与をさらに媒介して、公共事業費・総輸出額から影響を受ける。
● 公共事業費と総輸出額、産業からみる 相違
◇輸出企業の大半は大企業であるが、公共事業関係費が伸びた時に売上額を伸ばす建設会社等は、中小企業が多い。
◇大企業の方が中小企業よりも労働分配率が低い。
◇輸出企業は、賃金の低い諸外国の企業とグローバル市場の中で激しい競争を展開していることから、一般の内需向けの企業よりもさらに賃金を切りつめる傾向が強い。
◇グローバルな輸出産業の方が、建設産業よりも外国籍企業と取引している傾向が強いため、国内での乗数効果が建設産業よりも低くなる傾向が生ずる。
◇総輸出額が増えても、それが労働者の賃金や国内産業の売り上げの増加に結びつく傾向が、公共事業費のそれよりも低くなることが予期される
★公共事業費の方が輸出総額よりも、圧倒的に大きな事業効果を持つ
● 回帰分析
◇名目GDPや失業率等の8つの変数を従属変数として、各年次の総輸出額と中央政府における公共事業費の双方を独立変数とする重回帰分析を行った。
◇デフレーター、総税収、一般会計総税収、完全失業率、給与所得者の平均給与、生活保護被保護者実員数の6つの変数については、「名目GDP」が公共事業費と総輸出額の影響を「媒介」していると考えていることから、これらの6つの変数については、公共事業費と総輸出額と名目GDPの3つを独立変数とする回帰分析もあわせて行った。
◇同様に出生数については、給与所得者の平均給与が媒介していると考えられることから、出生数の回帰分析においては、これを加えた総輸出額と公共事業費と給与所得者の平均給与の3つを独立変数とした回帰分析もあわせて行った。
◇こうした複数の回帰分析を行うことを通して因果関係を検証する方法は、一般にパス解析と呼ばれ、その際に行われる複数の回帰分析は、階層重回帰分析と言われる。
◇データはいずれも、デフレーションに日本が明確に突入した1998年~2010年までのデータである。
●事業効果の推計
◇いずれの回帰分析においても重相関係数が0.7~0.99という高い水準になっている。
◇公共事業費と総輸出額だけを独立変数として導入した回帰分析では、全ての従属変数について公共事業費が、有意な係数を持つことが示された。
◇1998年以降、中央政府が1兆円の公共事業費の増加は、
□名目GDPの約5兆円の増加•
□デフレーターの約1.8 %の上昇•
□総税収の約1.6兆円の増加、•
□完全失業率の約0.14 %の減少•
□平均給与の約7万円の上昇•
□生活保護被保護者実員数の約10万人の減少•
□出生数の1.7万人の増加•
◇総輸出額については、名目GDP、総税収、完全失業率に対して有意な係数が得られたが、
デフレーター、平均給与、生活保護被保護者実員数、出生数に対しては有意な係数が得られなかった。すなわち、それらの変数については、総輸出額の増加がそれらの変化には統計的には結びついていないという結果が示された。
◇名目GDP、総税収、完全失業率の三つの変数も、その係数の大きさは、公共事業費の係数値よりも格段に小さく、おおよそ6分の1から3分の1程度の水準しか無かったという結果。
◇これらの結果は、内需主導型経済対策である中央政府による公共事業には、1兆円で名目GDPを5兆円上げる 大きな事業効果が存在している可能性を示している。
◇外需主導型経済対策である輸出増加には、それよりも圧倒的に小さな事業効果しか見込めないという可能性を示唆する。
●公共事業の事業効果についてのパス解析
◇総税収、平均給与、生活保護被保護者実員数の3つについては、
①名目GDPが独立変数として導入されていない場合には公共事業費が有意な係数を持つ。
②名目GDPが導入された場合には、公共事業費の係数が有意でなくなると共に、名目GDP の係数が有意となっている、という推定結果が得られている。
◇「公共事業費が総税収、平均給与、生活保護被保護者実員数に及ぼす影響は、名目GDPを媒介している」ということを実証的に示すものである。
◇出生数に関して
①平均給与が独立変数として導入されていない場合には公共事業費の係数が有意で ある。
②平均給与が導入された場合にはその係数が有意である一方、公共事業費の係数が有意でなくなる。このことは「公共事業費が出生数に及ぼす影響は、平均給与を媒介している」という事を統計的に示している。
◇デフレーターについて
①名目GDPが独立変数として導入されていない場合は、公共事業費が有意な係数を持つ②名目GDPが導入された場合にはその係数が有意となったと共に、公共事業費も有意な係数を持つ。
公共事業費は、公共事業を媒介して間接的にデフレーターに正の影響を及ぼすと同時に、直接的にも正の影響を及ぼしている事を示す。
◇完全失業率について
名目GDPを導入した場合、名目GDPの係数は統計的に有意な水準には届かないという結果となった。このことは、公共事業費が完全失業率に及ぼす負の効果は、必ずしも名目GDPを媒介しているとは統計的には結論付けることは出来ないということを意味している。
①名目GDPを導入した場合には、効用事業費の失業率への影響が低下し、有意では無くなる。
②途求めた名目GDPと完全失業率の間の相関係数は-0.72と非常に有意に強い負の相関を持つ。
③ 公共事業費は名目GDPに正の影響を持っている。
★名目GDPが、公共事業費が完全失業率に及ぼしている影響を媒介している。
◇階層重回帰分析の結果では、完全失業率に至るパスについては統計的有意に確認はできなかった。
◇デフレーターに対しては、名目GDPを介在する間接的なものと、それを介在しない直接的 なものとの双方の因果パスの存在が示唆された。
●輸出の事業効果についてのパス解析
◇輸出の事業効果は、名目GDPに対する効果も、公共事業に比べて格段に小さなものであった。
◇名目GDPを媒介した間接的な因果パスの存在は、ほとんど確認できない。
◇総税収は、名目GDPの媒介効果が確認された。輸出が増加することで名目GDPが増加し、それを通して総税収が増えるという、間接的効果の存在が統示唆された。
◇完全失業率は、名目GDPを導入しても、その係数が有意にならなかった。
◇総輸出額の増進による完全失業率の低下傾向は、名目GDPを介在したものではなく、直接的なものである。
◇名目GDPを導入した回帰分析からは、デフレータと平均給与に対して、総輸出額が
「マイナスの有意な係数」を持っている。
① これらの回帰分析ではいずれでも、名目GDPが有意に正の係数が推定されている。
② 総輸出額から名目GDPに対する係数を推定する回帰分析では、総輸出額は有意に正の係数を持っている。
③ 名目GDPを導入しない回帰分析において、総輸出額はデフレータと平均給与に対して有意な係数を持っていなかった。
◇総輸出額が増進しても、デフレータと平均給与は必ずしも増進しない。
◇総輸出額が増進すれば名目GDPは増進する。
◇名目GDPが増進すればデフレータと平均給与は向上していく。
◇輸出を伸ばす事を通して名目GDPをいくら増やしても、デフレータや平均給与はあ まり改善しない。
◇名目GDPを増やしてデフレータや平均給与を改善しようとするなら、輸出を伸ばして名目GDPを増やそうとするのではなく、何か別の方法で名目GDPを伸ばそうとすることが必要だ。
長いので、二つに分けて投稿します。
続きは NO.2 でお願いします。
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